1月29日。トラファルガースクウェアに面したナショナルギャラリー(王立美術館)で、絵画鑑賞を兼ねた休憩の最中である。
この辺りの美術館や博物館はほとんどが入場無料。いつも大勢の人で賑わっている。尤も、そこの展示物は世界的なスケールで計っても非常に歴史的価値の高い逸品ばかりであり、華やかりしころの大英帝国の勢いを垣間見る思いがする。
ロンドンもきょうで最終日。
夕食の予約をした「ルールズ」へ行くにはまだ少し早く、夕暮れのトラファルガースクェアで時間を潰すことにした。思えば、アイルランドのダブリンに着いてから、もう10日が過ぎた。長いあいだ想いを馳せていたロンドンの地に立ち、数日間の過去を振り返った。感無量である。
コヴェントガーデンの近くにある「ルールズ」は、英国特有のパイ&プディング料理の専門店で、店の看板には1798年創立と記してある。老舗の中の老舗、そしていささかも褪せていない。
またパイ&プディングは、ローストビーフと並ぶ英国の数少ない自慢料理のひとつで、もっとも英国らしい料理ともいわれている。
実は前夜、一度行ってみたのだが、予約をしていないうえ、二人ともラフなスェター姿だった。その場で翌日の予約をし、身だしなみを整え、きょうというわけなのだ。
店内は、その創立年度が示すようにトラディショナルの権化といいたくなるほど重厚な造りで、当然、ウェイターは初老の紳士。入り口にはクローク係のドアボーイ(こちらもオールドボーイ)が立っていた。
広い店内を見渡すと、外国人観光客は皆無。全てのテーブルは英国人で埋まっていた。
礼儀正しいウェターのエスコートを受け、沢山のイヤーズプレートが飾られたテーブルに就く。さっそく、英国の代表的なハンツマン料理といえるフィージョンパイ(キジのパイ)を尋ねるが、残念ながら狩猟シーズンを外していたので今はないという。
ならば、匂いが強く、これを食べるのは英国人だけと言われるキドニーパイに挑戦する。
使い込んだ食器で運ばれてきたキドニーパイは、羊の臓物などを煮込み、パイに包んで焼き上げた料理である。確かに独特の匂いはあるものの、なかなかに美味い。
味もさることながら、このルールズの姿勢は素晴らしい。我々日本人を相手に媚びず、重いドアを押して入ってきた者にのみ、完璧なサーヴィスを施す。「伝統」とは何か、老舗のレストランはこう問いかけていた。
注文したのは、キドニーパイにオニオンスープ、パン、ワイン、暖かい野菜、デザート、それにティ。これで25ポンド(\6,300)。大満足。
帰り道。夜のテームズ川を散歩し、腹をこなしてホテルへ戻った。
明日は日本へ向かっていよいよヒースローを発つ。
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