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アラン探訪 そして英国へ



第1章 いざアイルランドへ

北のはずれモナハンヘ...骨折り損の視察行脚

2日間の展示会を終え、日付は1月23日。北アイルランドとの国境に近いモナハンの街へ赴く。
とある家具工場の視察がきょうの任務である。
ロビーヘの集合が午前8時30分。昨日までの疲れが残っているせいか、みな遅刻気味だ。
重い腰を上げバスに乗り込み、さて出発。
ところがこのバスの乗り心地といったら、すこぶる悪い。路面の凹凸が酷いうえ、なんたる堅いスプリング。ドスン、ガタンと突き上げるサスペンションたるや、舌をも噛むほどである。
さらには運転手の眠気覚ましのつもりなのか、窓を開け放ちヒーターは無し。挙句の果てに禁煙とくる。バスはメルセデスである。

途中、アーデンという田舎街のパブでランチを摂る。 パブランチ!
ギネス、ホームメイドスープ、魚のフライに、毎度ながら多過ぎるマッシュドポテトと黒パン。
いわば昼定食のような献立であるが、これで約5ポンド(\1,200)だから、なんとも得をしたような気になる。そして、なかなかに美味い。
みなが食後の珈琲を飲む間に、腹ごなしを兼ねてパブの外を散策。全長が300メートルほどの小さな商店街には、メンズショップ、婦人服店、肉屋に八百屋、教会、玩具店、そしてパブ。衣食住を補う最低限の店だけが、ひっそりと軒を連ねている。
写真のフィルムを売っている薬屋(!?)らしい店に入った。数日後にロンドンの郊外で買ったフィルムも同じような価格だったが、フィルム1本が5ポンド弱(\1,000)は、やはり割高に感じる。ダブリンの街で写真機用のリチウム電池を購入した友人は、25ポンド(\5,700)を支払い激怒していた。たしかに高い。
よく覚えておかれよ...後ろが堀江氏である! 小さな食品マーケットで、やたらと甘いマシュマロ付きビスケットを買っていた同行の堀江氏が急ぎ走ってバスに戻り、目的地モナハンヘ向けてバスは発った。

アイルランドの山地特有の長閑な丘陵が続く。古着や古道具市のストール(蛋店のテント)が立並ぶ賑やかなモナハンの中心部を抜け、大きな家具工場に到着。
ようやく着いたかとの思いで、さっそく工場内の視察に勤しむのである。
一同は緊張気味に、材料のストック場から加工場へと順を辿って各ブースを見歩く。荘厳とした工場内の空気はアイルランドの伝統を...ちょっと待て。なにやら妙な具合だ。よく見るとただの量産工場ではないか。
最新鋭の機械を用いた受注生産などと尤もらしい説明をしていたが、このシステムは日本の15年前となんら変わりない。そのうえ電力供給がままならず、部分的に製作機械を止めねばならないと嘆くのだから、もはやお粗末としか言いようがない。 家具の造作たるや...? !
見学を終え、隣のショウルームヘ案内された。カタログと価格表を手渡されたが、この安売り婚礼家具のような代物をいったいどうしろというのか...。
一服と勧める接待を断り、あたふたと再びバスへ乗り込んだ。
北の外れモナハンでは、目指す伝統家具の面影がすでに消え失せていたのだった。南無三。

バスが走り出して間もなく、商務庁へ連絡を入れた大塚氏から報告があった。
アランスェターをプロデュースするミスター・オ・シォコン氏からの伝言で、「今夜、我家に釆ないか」とのこと。連日の睡眠不足と、閉口に終始したバスツアーの疲れは相当に堪えていたけれど、当然、異論無し。一目散にホテルヘ戻ることが決まった。
いまひとつの伝言は「明日のアラン諸島はとても寒いので気を付けてください...」と。官僚的で抑揚の無い口調に、不気味さが漂う。
すっかり夜の帳(とばり)が降りた田舎道を飛ばし、ダブリンの街ヘ戻ったのが午後7時ごろ。車内の寒さも極みに達し、とうとうみなは怒り始めた。そうしてホテルに着き、部屋へ帰る間もなくタクシーを飛ばす。
ミスター・オ・シォコン宅では、父パードリックと息子ローリーが、明々と燃える暖炉の側で我々を待っていてくれた。
* アラン探訪 そして英国へ3 *

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