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§2) 写真と散文





オータムピクニック
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◆僕:「ひょ〜、気っ持ちイイ〜。でも寒ぁみ〜!!」

 前夜、大阪の出張から遅くに帰宅し、毎夜日課のメール時間に勤しむ。明朝は午前9時の出立予定なのだけれど、帰宅が夜とあってはクルマを突っつくことも侭ならず、部屋のカーテン越しに見えるMGBに一別をくれ、そのまま床に就いた。

 明けて午前7時。起床とともにトーストと珈琲を口にし、ガレージへ赴いた。

 始動前のチェックは怠れない。引き続き歯ブラシをくわえたままで、エンジンスタート...うん、悪くない。

 身支度。この日のために新調したフリースパーカを被り、それとは正反対にくたびれた手袋を着けて、しばしの暖機の時間を過ごす。わずか一ヶ月前には、すぐに動き始めた水温計の針も、今朝にはひどく低気圧な目覚めのようだ。



 午前11時が、自宅から約100キロ離れた公共パーキングエリアが集合場所だ。運良く自宅からは渋滞の国道を素早くパスするルートがあるので、それを目指してMGBは発進した(なんだか寒いなぁ)。

 まもなく幹線国道から分岐すると、交通量は極端に減った。毎度のことではあるのだが、この日はそれに輪を掛けて少ない...というより前後にクルマが一台も居ない。これは爽快。MGBはさらに俊足をあげて、次々とタイトコーナーをクリアーしてゆく。

 切り立った谷間を縫う林道は、高く上がった太陽を自在に見え隠れさせるらしく、路面の陰と日向をせわしく切り替わる。そう、まるで景色をフラッシュバックさせるように。

 気分の高揚にあわせてペースを上げると、しかし寒い。

 新調といえどフリ−スはやはり風を通すのである。 けれど、100キロの区間を90分で走りきるには、平均時速はおおよそ65km/hの速度が必須で、つまり停まって上着をはおる時間も勿体なく、いや、かくも快調なペースに水を差すようなヤボなんぞ出来ようはずもなく、そのままで走り続ける。 ワインディングセクションを終え、長い直線に入ると2800rpm. をキープ。一息ついて水温計に目をくれると、華氏160度=摂氏70度でしかない。(オーバークール?...!! )

 そうか、真夏のツーリング支度でサーモスタットを取り除いたままだった。

 途端にアクセルを緩めたものの、エンジンが回っていれば不健全なことにかわりはない。結局、再びペースを戻し、約束の時間と場所へ辿り着いた。


僕:「おっはよ〜」
彼:「よーし、行きますかぁ」

 紅葉見物のファミリーカーに混ざってパーキングエリアで友人を待っていると、一本のタバコを吸い終える間もなく、爆音をまき散らしてMIDGETが入場。意味なくウロついている中年の男女が、にわかに視線を浴びせかける。たしかに目立つ形と音と匂いではあるが...。



 ルートの再確認を済ませ、いざ出発。名勝観光地だけにクルマも少なくないけれど、多くはけたたましい排気音に気付いてか、ありがたくも道を譲ってくれるではないか。とはいえ飛ばすとやはり寒い。

 しかれど譲り受けてノロノロでは無礼に過ぎるし、おまけに下り坂では更に水温は下がる。むむむっ...。

 山間の峠越えにさしかかると周りの風景が一変した。ツーリングと思しき4台の大型二輪集団に道を譲り、精密機械のように調和した美しい4ストロークエンジンの排気音を見送ると、ルームミラーの小さなMIDGET を除いて、視界からすべての動くモノが消えた。

 細い道路の左右を間近に囲む木々は、ブナ、クヌギ、カエデ、カキ、クリ...あらゆる広葉樹が己の色彩を誇るように紅や黄へと色づき、華奢なミラーに写る朱赤のボディをまとったMIDGETは、ときに景色と同化する。

 辺りを支配するのは、もはや2台のMGトゥアラーのみであり、ときおり木の実をついばむ小鳥が轟音におののいて枝間から飛び出すだけの純粋な世界だ。

 路面に積もった木の葉をMGBが巻き上げ、ふたたびの落葉をMIDGETが振り払う...三度舞い落ちた紅の葉は、ひっそりと己の居場所をみつけ、風に身をまかすのだろう。かすかな轍の痕を残して。

 それにしても、この MIDGETの俊敏さは何だ。たしか彼のエンジンは何も手が加わっていないはずなのに、登りコーナーであろうといささかも怯む様子がない。アチラさんは細君を載せた2名乗車である。

 尤も、テールスライドを必要とするほどのツーリングではないけれど(なにしろトランクには昼餉用の携帯ガスコンロなどを満載している)、それにしてもトルクフルな走りではないか。

 排気音から判断して、どうやら3速と2速を巧みに使い分けているようだ。う〜む、腕もいい。



 静まり返った木造の校舎を見つけた。

 ポカポカと陽の当たる校庭に昼食のグラウンドシートを想像して、広がった路肩へ急停車。おっおっおっ、砂煙を上げてMGBが横を向く。MIDGETもそれに続いて小さくスライド...だがドライバーは笑っている。

 どうやらこの校舎は10年前に廃校になった跡のようで、外壁を包み囲んだ杉板が、どうにもイイ味を醸し出しており、飴色の板にちりばめられた黄色の節は、まさに天然の成せる図柄である。

 この期においては一流デザイナーのグラフィックなんぞ、はっは、およぶところではない。

 無名の遺産に畏敬の念をもって、校庭の一角を拝借。簡素な重箱の和風弁当と、即席ホットドッグで「MG食堂」の新装開店。従業員がすべての料理をたいらげ、長い歓談の後、どうしても木造校舎を背景にMGの写真を撮りたくなった。

 半ば無理矢理クルマを校庭に乗り入れ、こんどは「MG写真館」がオープン。

 太陽を計りながら、一本のフィルムを使い果たした。



* オータムピクニック *

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* この文章は Nob's Extra / MGB on the WEB から転載しました。






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